お母さんたちは、このフィートチーネってのがとっても珍しいもんだって言ってたでしょ?
でも、これがどんなお料理になるのかは教えてくれてなかったもんだから、それが気になったのかキャリーナ姉ちゃんがお母さんに聞いたんだ。
「これってどうやって食べるの? 小麦粉で作ってある棒って事は、ルディーンが作ったのみたいに石窯の中で焼くのかなぁ?」
「ああ、そう言えばうちではこの手のものを食べた事は無かったわよね。これはお菓子じゃなくて、そうね……パンの代わりになるものといえば一番近いのかしら?」
キャリーナ姉ちゃんはね、フィートチーネってのが平ぺったい棒の形をしてたもんだから、僕が前に作った兵隊さんのおやつみたいなお菓子とおんなじなの? って聞いたんだよ。
そしたらそれを聞いたお母さんが、お菓子じゃなくってごはんなんだよって。
「まぁ口で説明してもよく解らないだろうし、ルディーンもどんな風に調理するか知りたいみたいだから、実際に作ってみましょう」
お母さんはそう言うとね、レーア姉ちゃんにお料理するから手伝ってって頼んだんだよ。
「レーア、大きめの鍋でお湯を沸かして」
「うん、わかった」
レーア姉ちゃんがお鍋に水を入れてる間に、お母さんがかまどに火をつけたんだよ。
でね、そのお湯が沸いてきたのを見たお母さんは、その中にお塩をいっぱい入れたんだ。
「お母さん、そんなにいっぱいお塩を入れちゃったら飲めなくなっちゃうよ?」
「いいのよ。このお湯はスープにするための物じゃないから」」
だから僕、びっくりしてそんなにいっぱい入れたらダメじゃないかって言ったんだけど、そしたらこれは飲むためのお湯じゃないんだよってお母さんは言うんだ。
「飲まないのにお塩を入れたの?」
「そうよ。お塩をいっぱい入れたのはね、フィートチーネを茹でるのに必要だからなのよ」
お母さんはそう言うと、箱から一握り分くらい取り出したフィートチーネってのを、バラバラバラってくっつかないようにお鍋の中に入れてったんだよ。
でね、そのお鍋の中を木でできた長い調理用のフォークでくるくるってかき回すと、さっきまではあんなに硬かったフィートチーネがみんな、へなへなって柔らかくなっちゃったんだ。
それを見た僕は、その時初めて、これが何なのか解ったんだよね。
そっか! これ、形は違うけど、前の世界にあったパスタってのとおんなじのだ。
そう言えばさっきお母さんも、これの事をパンの代わりになるものって言ってたもん。
あっそう言えば確か、パスタっていろんな味で食べられるんじゃなかったっけ?
それを思い出した僕は、このフィートチーネはどんな味で食べるんだろうって楽しみにしながら茹で上がってくフィートチーネを見てたんだよ?
でもね、
「そろそろいいかな? 後は煮汁を少しだけこっちの鍋に移して、そこにブラックボアの脂身を入れてっと。これに柔らかくなったフィートチーネを絡めれば完成よ」
お母さんは、ブラックボアの脂を溶かしたのに塩を入れただけのをかけて食べるんだよって言うんだもん。
それより絶対おいしい食べ方ができるはずなのに!
そう思った僕は、お母さんに言ったんだ。
「お母さん。フィートチーネ、、他の味のを作ってもいい?」
「ええ、いいけど。何か美味しくなりそうなものを思いついたの?」
「うん。これ、平ぺったいでしょ? だから絶対濃い味の方がおいしいと思うんだよね」
思いついたって言うか、思い出したんだよ。
前の世界で見てたオヒルナンデスヨで、簡単で美味しい平ぺったいパスタのお料理作り方を見た事があるってのをね。
「お母さん。ブラックボアのお肉とって」
僕はブラックボアのお肉を薄く切ると、それにお塩を振ったんだよ。
でね、お母さんにロルフさんから貰ったお土産の中にあったバターをお鍋に入れて、そのお肉を焼いてもらったんだ。
「お母さん。焼けてきたらこの葉っぱのお野菜を入れて」
「ええ、いいわよ」
今はあっつい季節だから、葉っぱのお野菜がおいしいんだよね。
だからそれを入れてもらって火が通ってきたら、僕は冷蔵庫からあるものを取り出してお母さんに渡したんだ。
「後はこれと牛のお乳を入れて煮てから、最後にチーズを入れるんだよ」
「これを入れるって……これ、生クリームじゃない」
「うん。牛のお乳だけじゃなくって、これ漏れた方がおいしくなると思うんだよね」
そう、僕が持ってきたのは生クリームなんだよ。
だって牛のお乳だけだと味が薄くなっちうでしょ?
だからこれを入れて、味を濃くするんだ。
「お母さん。味見していい?」
「いいわよ」
でね、最後に味見してちょっと薄かったもんだから、お塩をぱらぱら。
この時、料理スキルがあるからなのか、お土産の中に入ってた胡椒を入れたらおいしくなるんだろうなぁって思うんだよ。
でも、胡椒って辛いでしょ?
僕、辛いのはダメだから、お母さんにはないしょにしといたんだ。
でね、そのソースを茹で上がったフィートチーネにかけてねってお母さんに頼んだら、僕はお父さんやお兄ちゃんお姉ちゃんが待ってる食卓の椅子に座ったんだ。
「何これ? すっごくおいしい!」
「ちゅるちゅる食べられて、私、パンよりこっちの方が好き!」
レーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんは、このフィートチーネってお料理がとっても気に入ったみたい。
それにね、お兄ちゃんたちも黙ってるけどすっごい勢いで食べてるから、おいしいって思ってるんじゃないかなぁ?
「イーノックカウで食べたのは多めの脂を絡めながら焼いたものだったけど、こういう食べ方をしてもおいしいのね」
「ああ。ルディーンが言っていた通り、濃い味のフィートチーネも美味いな」
イーノックカウのお店だとね、フィートチーネは脂にバジルとかのハーブを入れたり、からしや胡椒なんか入れたりして食べるんだって。
でも僕が作ってもらったクリームパスタもおいしいねって言ってくれたんだよ。
「そっか。じゃあもしかしたら、ロルフさんたちもこんな風に食べるって知らないのかなぁ?」
「そうねぇ、少なくともイーノックカウには無かったから、もしかしたら知らないかもしれないわよ」
「土産にこんなものをくれるくらいだから、あの爺さんもきっとフィートチーネが好きなはずだ。教えてやったら喜ぶんじゃないか?」
「うん! 今度行ったら、ロルフさんたちにも教えてあげよっと」
ニコラさんたちもきっと食べたいだろうし、あっそうだ! ルルモアさんもおいしいものが大好きって言ってたから教えてあげないとね。
僕はクリームパスタを口いっぱいに入れてモグモグしながら、イーノックカウのみんなもこれ食べたらおいしいって言ってくれるかなぁって思ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
作中にフィートチーネという名称で平面パスタが出てきますが、これはフィットチーネを間違えて表記したのではなくわざとなので念のため。
最初はもっともじった名前にしようとも考えたんですよ? でもベニオウの実の時にイチゴと間違えられることが多かったので止めておきました。
因みにベニオウの実の時は白桃から始まって、赤い実という事で紅へ変えて”べにとう”に変え、なんとなく変な感じがしたのでとうをおうにしてベニオウの実としました。
でも、今考えると確かにイチゴっぽい名前なんですよね、ベニオウの実って。
それを考えるとどうやら私にはネーミングセンスが無いようなので、今回は最低限の変更だけにとどめたという次第です。